半導体産業の行方
関東学院大学
本間 英夫
ムアーの法則にしたがって半導体は着実に微細化し、開発品ではすでに0.1ミクロンにまで到達している。
微細加工をするための加工ツールや評価機器は、数億円から数十億円、しかも減価償却前にどんどん更新せねばならない。果たして、それで利益が上がるのであろうか。
その矢先のITバブル。シリコンバレーでは、IBMを筆頭に大企業は大規模な縮小、撤退、多くのベンチャー企業の撤退が相次ぎ、一時の活況とは程遠い状況であると言う。一端このような状況になってしまうと、元の状態に復帰するには莫大なエネルギーが必要となる。
一方、国内に目を転ずると、半導体関連の設備メーカーは、設備投資の冷え込みで、仕事ががた落ち。装置メーカーや薬品メーカーは、国内需要の冷え込みから海外展開を余儀なくされている。露光装置は数十億すると言う。撤退したほうがいいのではとの判断もあるようだ。
微細化に伴い材料の使用量はどんどん減る一方に対して、加工や評価ツールは高騰の一途である。それでも台湾は、世界の半導体工場を標榜し、どんどん経営者が投資している。台湾や韓国では、半導体を初めとしてハイテク技術に優遇税制措置がとられている。日本はそのような優遇税制措置がないので、このままではどんどん弱体化するであろう。技術の変化のテンポが速い領域だから、投資と回収のいたちごっこである。
エレクトロニクス売れ筋商品は
パソコンの需要は一巡し、しかも1998、99年製のパソコンの性能及び耐久年数も向上しているし、しかも景気の低迷で買い替え需要は冷え込んでいる。
すでに、本年のクリスマス需要はあまり期待出来ないとも言われている。一縷の望みは携帯電話か。携帯電話の性能は大きくアップし、最近では写メールとかで、カメラ付きの画面の大きいものが唯一売れ筋らしい。それから短い映画もダウンロードして見られるようになっているとの事。
さらには、時計サイズにまで小型化する計画(当初の構想で時計サイズは打ち出されていたが)と言う。携帯も行きつくところまで行くと、もうそれ以上の伸びは期待できない。人口構成から判断しても、ある程度お金に余裕があり、いろいろのブームと共に歩んできた我々の第一次ベビーブーマーは、すでに50代の後半であり、余り性能がアップしても使用するのはほんの二つから三つの機能だけ。
ちなみに、どちらかと言うと何でも新しいものに飛びつきすぐに購入する小生ですら、初期の真っ黒で、でっかいPHSを音声がクリアーだからとの理由で購入。その後、性能が上がり機能が色々付加されだしたが、通信用には携帯よりも高速であるとの理由から、又PHSを購入、さらにはそのバージョンが少し上がったとの理由から買い換えている。
と言うことはこの10年位の間で、3台買い換えたことになる。今の若者は買い替えの頻度ははるかに高いだろうが、我々の年配では、携帯の使い方はほとんど連絡用のみで、いろいろ機能が付加されてもそれに追いついていけないし、これだけの機能で十分であると思っている人が圧倒的に多い。したがって、後のターゲットは若者。
最近、授業中におしゃべりする学生はいなくなった。真剣に講義を聞いているのかと先生方も満足しているようだが、実は彼らは授業中にメールを送受信したり、インターネットから情報を取ったりで、もう携帯が生活の一部と言うより主要部分を占めるようになってきている。
テレビ文化で一億総ーー(あれこれ変換できない、ということは差別用語で使用できないのかな。)といわれていた時代よりも、いつも使われる側に立っている21世紀を担っていく若者の能力は、低下の一途をたどるのかなと心配である。
初等中等教育で総合学習科目が新設され、義務教育10年間で700時間学習するとのこと。従来の評価法では育たなかった、豊かな感性を持った若者を育てることが、この学習の目的であると文科省は実行に踏み切った。しかし一方では、基礎力が低下するのではとの危惧もでている。さらには大学に入っても将来に夢が無く、刹那的な遊びに耽溺しているようでは先が思いやられる。とにかくこの10年くらいの間で、日本が世界の中で、アジアの中でどのようなポジションに位置することになるのか結論は出ているだろう。
内需拡大が景気回復の決め手
売れ筋エレクトロニクス製品の話が、変な話題に飛んでいってしまったが、戦後一家に一台と、白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫、その他の家電製品は、それぞれ時期を同じくして立ち上がった。したがって、需要予測はそれほど外れなかっただろう。しかし、現在は物が豊富で、十分今の状態で暮らしていけるし、よく言われているように老後の不安から、買い替え需要は一向に盛り上がらない。また、生活を更に豊かにしてくれるだろう新規エレクトロニクス製品がいろいろ出てきているが、これも盛り上がりに欠ける。前にも書いたことがあるが個人消費が景気の決め手になる。
今までは金利が高く、時間がお金を増やしてくれた。ところが、これだけ金利が低下すると、リスクをとらないとリターンが無いといわれだした。しかし、経験の無い人は、今まで通り金利のつかない郵貯や銀行に預けるしかない。したがって、貯まりに貯まった1400兆余の個人財産を、如何にして市場に出すかの仕掛けを、今、真剣に考えねばならない時期に来ている。
思い切った生前贈与(完全無税化)、寄付金に対する優遇措置(大学に寄付した場合にでも国税はその分、税が控除されるが、地方税は赤十字への寄付以外は税金が取られる。このことを知らなくて、大きな持ち出しになった経験がある)、税の直関比率の見直し、土地税制の見直し、為政者は色々知恵を出しているようだ。平均的に見ると日本では、せっせとお金を溜め込むことだけにあくせくして、面白くない人生を送っているように見える。現在は貯蓄の多くを老後の不安の解消にまわさざるを得ない状況にある。これでは一体、人生はなんだったのか。このような灰色の状態から、豊かで充実感のある生活を送るのに振り向けたくなるような仕掛け、たとえば個人がセカンドハウスを手ごろな価格で持てるようになれば(実は今ピークの時から比較すると3分の1から5分の1になっている所が多い)これだけでも経済効果は大きい。また、生前贈与税を思い切って撤廃すれば青年層に至るまで土地付き住宅やマンションを購入する意欲が高まる。受託産業は勿論のこと、自家用車、家電製品、家具、経済に対する波及効果は絶大である。
景気が回復気味
6月末の経済指標によると、景気は底をうち回復軌道にあるという。しかしながら、6月の株主総会で行われた3月の決算報告では、大企業の一部では好決算を出したようだが、その発表を揶揄して、雇用無き景気回復、中小無き景気回復、地方無き景気回復といわれている。リストラ効果、海外移転、減量経営で利益を出している大企業が多い。したがって、これからが大変だ。
今まで地方に回っていた生産の拠点が、中国を中心とした海外に展開している。したがって、日本の雇用はどんどん低下し、全体としてはだんだん弱体化している。政府は技術立国としての立て直し策として、税のかなりの部分をハイテクの助成、たとえば民間の高度先端技術への助成、トップ30と大学への重点配分などにつぎ込むと言う。それも大切なことだが、もっと先端技術をやっている企業向けに優遇税制措置を講じて活性化していかねばならない。
雇用無き回復
企業の減量経営、業績低迷からの脱却と思い切った雇用の削減が、多くの企業、特に製造業で行われてきた。したがって、失業率は大幅にアップしている。
これまでの20世紀型のいわゆる工業化社会においては、企業間の競争を背景に大規模な生産設備の積極的投資、多くの労働力確保により、どの企業も大きく成長してきた。今や、日本の生産能力は過剰になり、人口もこれからは高齢化少子化でピークアウトし、シェアーを外国に求めてきた手法もアジア諸国の追い上げで、もはやこれも通用しない。
これまでの成長軌道は過去の軌道であり、これからはポスト工業化社会では、生産規模は縮小、人員削減は避けて通れず、単純な生産労働や事務はどんどん効率化され、従ってこれらの領域では、終身雇用の受け入れ人数は大きく低下する。すでにアウトソーシングやパートタイマーの活用が常識になってきている。