所得格差

関東学院大学
本間英夫

賃金やボーナスが伸び悩み、さらには高齢化が進んで貯蓄を取り崩して生活費に充てる世帯が増えている。したがって、可処分所得から貯蓄に回した割合(家計貯蓄率)は7年連続で低下し、ピークであった1975年度(23・1%)の8分の1以下に減っているという。また、最近は年収が年齢×10万で上昇志向が希薄な下流層に甘んずる若者が増加し、ニートやフリーターの数は450万人近くとも言われ、所得の格差はさらに拡大している。

景気は昨年後半から上向いてきたが、07年から始まる団塊世代の大量退職で家計貯蓄率はさらに低下すると経済学者は観測しているが、どうもよくわからない。家計貯蓄に関しては素人考えであるが、どう考えても団塊の世代の退職で、一時的に大量の退職金が支払われ、これまでの日本人の習性としてこれらの退職金はとりあえず貯蓄に回されるので貯蓄率は大幅に上がるはずである。したがって、高齢化社会の到来とともに、お金は60歳以上の退職組に集中することになる。すでに国の借金は750兆円を超え、地方自治体との借金と合わせると1200兆円以上になるという。その借金分が個人の貯蓄に回っているといわれている。この多額の貯蓄に目をつけ、退職後の豊かな第二の人生をといろんな仕掛けが紹介されている。たとえば豪華客船による世界一周旅行などは募集とともに満杯とか。

フリーター対策

確かにこれからは少子高齢化社会に入り、しかも正社員をあきらめたニートやフリーターの増加により所得格差は、ますます拡大し、不安定な社会構造になる。

フリーター人口が増加している背景には、フリーターとして働いていた方が短期的には新入社員より収入が多いとか、また、多くの企業ではこれまで正社員採用を大きく絞り、派遣社員でまかなってきたからである。

フリーターは労働力の提供だけが求められ、スキルが向上しないため、フリーターを長く続けても職歴だと認められない。また、企業側は正社員を金銭的に雇えないため、フリーターで代替している。フリーターは賃金を安く雇えるニーズがあるけれど、これらのことが悪循環に陥り、究極的には日本の技能、技術力が大きく低下する。

多くの若者はフリーターがいいとは思っていないはずだ。今後、新卒の採用枠の増加が望まれる。

生き方再発見

昨年暮れの耐震構造疑惑に始まり、年が明けると証券市場に激震が走った。両事件とも内容が明らかになるにつれて、人間の醜悪な欲望と心の脆弱さ、倫理観欠如が浮き彫りになってきた。心の豊かさを欠いた物質至上主義、拝金主義に誰もがそれを是とはしていないのだが、それぞれに人生を振り返ってみると、多くの人は、いつの間にか無自覚的に物の豊かさを追求するようになってきたように思える。

20年くらい前、ある著名な先生が学会の懇親会で「あなたたちは働いているのではなく、動いているだけだ」と仰ったことを思い出す。

何から何までテンポが速く、結果的には充実感のない生活を送っているのではないか。倫理観も含めて、この種の事件が続くと学生の指導も含めクオリティーの高い生き方とは、と考えさせられる。

ヒアリング試験のトラブル

大学入試センター試験の英語リスニング試験でICプレーヤーのトラブルが原因で457人もの多くの学生が再試験を受けた。これだけのトラブルが発生した問題のプレーヤーは、どこが製造したのかと知りたくなるが、詳細はほとんど公表されなかった。その後、報道によると製造・管理費で総額約16億円をかけ、約61万台を準備したとのこと。しかしながら、メーカー名については試験問題の秘密を守るため明らかにできないと説明した。
 トラブルが発生した翌日だったか、インターネットを開いたら配布されたICプレーヤーの使用方法が出ていた。それによると受験生は先ず、試験問題の音声が記録されたメモリーを入れて再生する。プレーヤーとメモリーのセキュリティーが一致しないと再生できない仕組みで、いずれも同じメーカーによって製造された。

再試験の受験者は、全受験者(49万2596人)の0.09%強で04年実施の試行テスト(3万5365人受験)での不具合発生率0.05%(18件)を大きく上回った。
 入試センターは来年度も、今年と同じメーカーに機器を発注することを決めており、不具合の原因などについてメーカー側から報告を受けたうえで、来年度からは安心して受験できるよう改善策を検討するという。この種のヒアリングを採用したのは全国校長会の要請に基づいているとの事である。国際化の中で、英語を道具として使いこなせるようになるためには、ヒアリング能力はきわめて大切なので、趣旨には大賛成である。しかし、なぜICプレーヤーにこだわるのだろうか。TOEICなどの全国試験と同様、教室にスピーカーから音声を流せばみんな公平でトラブルもほとんどないであろう。

おそらく全国統一で教室の環境、設備がまちまちで公平性に問題があるだろうからと、この種のICプレーヤーを使用することになったのであろう。しかし、このやり方では、機器に起因するトラブルのほかに、聞こえなかったとか、ノイズが多いとか、教室全体に聞こえるわけではないので受験生からクレームが発生しやすい。視聴覚設備が会場によって異なるので、この種の方法しか取れないと判断したのであろうが、16億円もかけるのであればこんな方法よりもCDプレーヤーを用意してCDに試験問題を焼き付けておけば、この種のトラブルは避けられるし、コストも安くなる。TOEICやそのほかのヒアリング試験のやり方も参考にされたい。

新造語ベジタリアンならぬデジタリアン

ネットの最新サービスや技術動向に敏感で興味を抱いたサービスにはすぐに飛びつく人を示す造語。仕事を創造的かつ効率的に進め、また暮らしを豊かにする手段としてネットを自由に使いこなす人。しかしながら、ネットからの情報には限界があり直接、先達からの知恵と経験を学ぶ必要がある。ネットで調べればいいとネットに没頭することは危険で時間の無駄使いになりかねないので注意が必要。

12月号にてセレンディピティーの具体例を1月号から紹介するといっておきながら延び延びになっていることをご容赦ください。