危機管理と失敗学
関東学院大学
本間英夫
4月号では、危機管理に関して山下先生に書いていただいたが、ちょうど国内で様々な問題が多発していた時期であったため内容が非常にタイムリーであり、読者にとっては大いに参考になったと確信している。
特に我々が関連している表面処理をはじめとして、製造業では危機管理を怠ると会社の存亡に関わる。そういった意味では、具体的な事例を紹介する方が一番インパクトはあるのだが、これはあまりにも生々しい。
実際に事件にまで発展してしまった企業にとっては、その企業のトップが社会的責任から業界全体に対して話されるのは別として、このような小冊子を通して当該者ではないものが具体的に語るのも問題だ。
そこで、本号ではヒヤリハットや企業で起きている問題点等に関して紹介し、読者の参考に供したい。
そういえば、10年位前から「失敗学」の学会が立ち上がっているようだが、いずれ機会を見て表面処理における色々な失敗例に関する話題を論議してみたいものだ。
失敗学とは、ウィキペディアによれば、起こってしまった失敗に対し、責任追及のみに終始せず、(物理的・個人的な)直接原因と(背景的・組織的な)根幹原因を究明する学問と定義されている。
製造業では事故や失敗は避けがたく、小さな失敗や事故から、多数の死傷者を出す大規模なものまである。失敗学は、このような事故や失敗発生の原因を解明し、事故・失敗を未然に防ぐ方策を提供する学問である。
失敗学会は2002年に畑村東大教授が会長となり組織され、現在、個人・法人会員を含めて1200人の会員が活動している。年2回の大会には、大きな事故を起こした企業の当事者による分析や失敗防止策が報告されるとの事である。これまでも、テレビをはじめとして各メディアで何度も紹介されている。
小さな「予兆」を逃さない!
過去に大きなトラブルを経験した企業を中心として、失敗学を学び実践する機運は高まっている。事故に至らなかった小さなトラブルを事故の「予兆」ととらえて、事例をみんなで共有する仕組みを構築することは、同じような失敗をおこさないために重要であり、そのためには失敗を隠蔽しない企業に変えていかねばならない。
悪い出来事はすばやく報告、良い出来事はゆっくりと報告
これまでの企業の体質としては、どうしても悪い出来事は後回しにされて、いよいよ切羽詰って表ざたになり、にっちもさっちも行かなくなっている例が多い。
最近は、内部告発から道義的に許されない事件が暴露され、こんなにも日常的に行われていたのかと落胆してしまう。また、特に食品に関しては即健康に関わることであり、じわじわと我々の健康を蝕んでいるのかと思うと、一つ一つ口に入るものに警戒感が出てきて、味わうという感覚から疑いの感覚になり、食文化も狂ってきた。
企業のトップは、「悪いニュースはすばやく報告、良いニュースはゆっくりと報告」の考えを部下に徹底させ、企業体質を変えていかねばならない。それには風通しの良い組織の構築が大切である。
すなわち一方的なトップダウンは極力避け、部下の意見を聞き、発言の機会を与える社風を育てることである。ところが、「もの言えば唇寒し」と、部下が建設的な意見があっても何もいわないような企業が多くなってきているのではないだろうか。
失敗を恐れないこと
失敗は必ず起こるものであり、それを恐れていては何も建設的なことは生まれてこない。失敗を受け入れない人、失敗を受け入れない組織は、危険である。
失敗を失敗と認めないままにそのまま継続してきている例が、これまで国レベル、地方自治体レベル、企業レベルで明るみになり、ほとんど再起不能の状態から、改革または撤退を考えるようなことが最近多い。
ヒヤリハットの法則
1つの重大事故の裏側には、29の軽微な事故(ヒヤリ・ハット)があり、その裏側には300の何らかの異常が存在していたという経験則に関しては以前に紹介してきたし、山下先生の危機管理の中にも述べられていた。
300の異常の段階で、あるいは29のヒヤリハットの段階で何らかの手を打っていれば、重大事故を避けることができる。
大事故の裏に必ず何らかの兆候があるように、企業の大失敗に際しても必ず兆候がある。
失敗から学ぶこと
世の中には、良い結果から学ぶ組織は多く存在しているのだが、悪い結果や失敗からから学ぼうとする姿勢を持つ組織は、決して多くないようだ。
失敗事例をあえて共有化し、そこから学ぶしくみを作ることは、同じような失敗を組織内で繰り返さないために極めて有効な方法である。
信頼関係をベースにした組織を作ること
重要なことは、人を信用し、意見を聞き、発言できる社風にしていくことである。
部下が会社の方針に対して、賛成でも反対でも自由に意見を述べ、それを聞く耳を持つこと。もし上の立場の人が聞く耳を持たず、これを排したら、二度と建設的な意見や反対意見は出てこない。
「もの言えば唇寒し」と部下が思い始めた時、その組織の向上心はなくなり大きな発展は望めなくなる。
最近は個人の能力や実績などの成果主義が中心となり、チームワークが乱れてきている。
その結果、事なかれ主義、非協力、丸投げになり、信頼関係が大きく損なわれてきている。
本来の働きやすい職場とは、会社や上司から与えられるものだけではなく、そこで働くものが自ら作り上げていくことも重要である。みんながそのような考えを持って事にあたれば、企業は大きく発展するであろう。
働き手の閉塞感
最近のニュースによると三人に1人が鬱だという、信用性はともかくとして、真剣に自殺を考えたサラリーマンが20%以上に上るとのニュースにはびっくり。このように現在、鬱の人は結構多いらしい。したがって、ストレスをコントロールする方法を説いたストレスマネージメントセミナーが多くの企業で行われているらしい。
このように、仕事でノイローゼや鬱になるサラリーマンが多いということは、仕事に対する充実感や、夢が無いからであろう。
鬱やノイローゼになりやすいのは、真面目でガンバリ屋で責任感が強い人ほど、過酷で閉塞状態になると、ノイローゼや鬱になるわけだ。
中には、鬱やノイローゼにならないためには、行き詰ったら、無責任に適当に投げ出すことが必要だと、これまた無責任なことを奨励している人もいるがこれは論外として、仕事を嫌々やっていと、充実感や満足感が喪失し、ストレスが蓄積するし、成果も出ない。前向きに、プラス思考が基本である。