大学教育現場の現状

関東学院大学
本間 英夫

めっきは機械部品、日用雑貨などに耐食性や装飾性を付与する単純な技術で、未だに表面だけを飾り、中身を偽るような印象で捉えている人が多い。歳をとったせいか、研究発表よりも基調講演とか招待講演が多くなったのでこの種の半世紀くらい前の古い認識や印象を払しょくし、さらにはめっきの重要性を的確に理解してもらうために、分かり易く身近な例として先ず携帯電話を取り上げ、電子部品や半導体電子回路形成をはじめ機能性を付与する広範な領域でめっきが必須技術になっていることを説明するようにしている。

めっきを専門にしている企業の技術者へのハイテクノの教育講座でさえ第一回目の講義でめっきの重要性を説いた後は刺激になった、こんなにも重要な技術であったのか、やる気が出てきたとのコメントがほとんどである。

一般の方々やこれからの担い手である小、中、高の生徒にも機会があるごとに分かりやすく重要性を説くようにしている。神奈川県では理科離れを抑制し、青少年に科学技術の面白さを知ってもらおうと、実験を中心としたコンクールが毎年行われている。

本年も表彰式が3月上旬に行われたが、その際に基調講演を1時間やって欲しいという。講演の題目をちょっと考えて「よーく観察してみよう。アッと思うような発見や発明に出会うよ」とした。当日、小、中学生が主であったが、100名近くの生徒が集まり自分の専門領域を中心に、分かりやすく科学の面白さを説いた。また現在大学では出前講座とか出張講座が高校生向けに行われているが、積極的にかかわっていこうと思っている。この種の企画や機会を通じて、少しでも青少年が工学の面白さを理解し理科離れの抑制に貢献できればと思っている。

ドライからウェットへ

電気化学分野で一番影響力のある、米国の学会誌を久しぶりに開いてみたが、燃料電池の触媒やセパレータなどの成膜技術の報告がかなりの紙面を割いていた。

金属の機能を付与する方法として、一般には先ずドライ(乾式)プロセスが検討され、ウエット(湿式)プロセスへ移行するのが常である。

磁気ディスクの製造プロセスで、IBMがドライからウエットプロセスにいち早く変えたのはあまりにも有名である。その先導役であったフェローのロマンキュー博士とは、すでに20年以上前から共に関連学会のリサーチボードメンバーであった関係上、何度もお会いして話す機会があった。

ロマンキュー博士は、大学時代に冶金学を専攻しておられたので、40年以上にわたって、常にエレクトロニクス分野でメインの成膜技術であったドライプロセスから、めっきに代表されるウエットプロセスへの転換に関して、先駆的な研究を進められてきている。その結果、めっき技術は現在では半導体のダマシンプロセスをはじめ、MEMSやバイオチップなどの製造技術として大きな役割を果たしており、今後ますます要素技術としていろんな領域に応用されていくだろう。

金属そのものの固有の機能を発現させる方法として、スパッタリングなど物理系のドライプロセスと、めっきなどを中心としたウェットプロセスがあるが、コスト面でウェットプロセスの方がはるかに有利である。

我々は、電子部品の高集積化への適用に関して当初から携わってきたが、めっき技術がキーテクノロジーとなっており、まさに「ハイテック、めっきがなければ、ローテック」である。

現状における課題

 戦後培われてきた日本のモノ作りを中心とした技術が成熟し、グローバル化した今日、これらの技術が東南アジア諸国にシフトしていくことは自然の流れであるが、これまでは知的財産保護などの対策がそれほど重要視されてこなかった。

これからはフェアな技術移転を意識する必要があり、日本の強みであるモノ作りの中でも、めっきに関して常に世界をリードするような技術の開発が重要である。実際、中村、斎藤、本間と、我々はこれまでいくつか日本発の技術を作り上げてきた。

プラめっきの工業化、高速無電解銅めっき、無電解めっきの混成電位論、アディティブプロセスの開発、自動制御、バッチ多段水洗や電解、イオン交換などを駆使した、リサイクルシステムの開発、その他かなりの日本発の技術を開発してきている。

最近、日本のモノ作りのスキルが若干低下しているような状況になっており、立て直しのための方策がとられている。先月初めに、「特定ものづくり基板技術」についての方向性について、表面処理部門に関してのヒアリングを受けた。

これまで、委員として参画してきた中小企業庁でまとめられた報告書には、めっき技術をはじめとして、もの作りに関する11部門の課題やニーズに関して、難解な表現になっているが、これからの方向性も含めて網羅されており、これらを迅速かつ着実に実施することで、技術開発が良い方向へ進んでいくであろうと確信している。

「特定ものづくり基板技術」に対して、革新的かつハイリスクな研究開発を促進するために、川上中小企業、川下製造業者、研究機関等がいかに連携し研究開発を推進していくか、これを戦略的基板技術高度化支援事業と名付けて展開しようとしており、この事業に対する評価に関しても先日コメントを求められた。

国の関与の必要性、政策としての妥当性は?

この質問に対して、政策としては、大切であり、その妥当性は十分であるが、国が提供する高度化指針などの文章が分かりにくく、政策自体が十分周知されていない。

難解な文章表現のみによらず、ビジュアルな説明を付すことによってわかりやすくする必要がある。また、助成金の申請書類も、簡略化すべきであるとコメントした。申請の簡略化により、支援事業に対して、多くの中小企業で応募しやすくなるだろう。

また、申請書の審査にあたっては、インターネットなどの企業情報などを活用して企業のポテンシャルなどを知ることなどができるはずである。また、県商工労働部、県工試、学会組織などを通じ、本旋策を含め国の政策を積極的にPRしていくことと、多くの中小企業があらゆる旋策に対して単独で応募するのではなくたとえば公的機関や大学と連携をとり、もっと応募しやすい環境を構築していくことが重要であるとコメントした。

我が国の産業活性化

産業活性化に向けてのコンソーシアム構想などは、総論賛成、各論反対で、具体的なアクション段階になると個々の企業が持っているポテンシャルを出し渋る傾向にある。従って、コンソーシアム構想が謳われても、実際にはこれまであまり成果が出ていない。

産業活性化を目指すのであれば、コンソーシアム型の研究開発方式を開かれたものに変えていくことが、必要である。その第一歩として、個々のメンバーが自らのアセット(技術、人材、設備等の資産)を出し合うことが重要で、産学協同を始めとした大学の知の活用は有効な手段である。さらには、成功のカギを握るのは求心力のある指導者の下で進める必要がある。

ものづくり基盤技術の高度化に向けて

研究開発にあたって、とかく生産性の向上だけを目的とした制度が導入されがちであるが、技術者たちは面白みを見出せずに閉塞感に陥ってしまう。研究開発には、ある程度の余裕と公的機関や大学などとこれまで以上に連携することが重要である。

 我々は、基礎・応用に加え、実用化を目指した企業との産学協同を積極的に推進している。現在は、ナノインプリンティングなど回路形成やMEMSへのめっき技術の適用、プラスチック、ガラスなど金属以外の素材へのめっきなど、あらゆる業界のニーズに応え得るようなめっき技術の開発を行っており、基礎・応用だけでなく、実用化への橋渡しも含めた表面処理技術の一大研究拠点を目指している。

3月に開催された関連学会

3月の中旬に本学でエレクトロニクス実装学会の講演大会が開催された。7年前にも一度当学会の講演大会を行ったが、その時は学会始まって以来の1000名以上の参加者があり、記録はその後も破られていないとのことであった。

しかしながら、今回は大不況の中、しかも一番打撃を受けているエレクトロ二クス関連の学会であり、当初の予測では半減するだろうといわれていた。1月から2月に開催されたほかの学会の様子では、すべて参加者が半減していたという。しかしながら環境が最悪の時であったが、左記の事務局からのメールによると例年の約20%減にとどまりホッとしている。

大変お世話になりました。

御蔭さまで講演大会が無事終えることができました。不況という逆境で委員も含め、600人を超える参加者が得られました。

参加の皆様からも関東学院の施設の素晴らしさ、アルバイト学生の働きぶりには高い評価をいただいております。

大会終了後にすぐに御挨拶に伺うべきところ、後片付けのため失礼し、御礼が遅くなりましたこと深くお詫び申しあげます。