愛情と感謝の気持ち、利他の精神で

関東学院大学材料・表面工学研究センター
本間 英夫

研究センターを構築してそろそろ一年になる。技術開発の担い手になるスタッフは田代君、梅田君、クリス君の3名となり、大学院および学部卒研生、さらには企業からの研修生と常時十数名が研究開発に注力する体制が整ってきた。研究センターで取り組んでいるテーマについては次号あたりから紹介していきたい。

愛情と感謝の気持ち、利他の精神で、

人生の「あいうえお」「あ」は愛、「い」は意志、「う」は運、「え」は縁、「お」は恩と言われるように先ず愛をベースに人に仕えること、奉仕の精神が大切だと学生やスタッフには、事あるごとに語っている。誰かの為になる仕事を喜べるようになろう。愛情を持って仕事をしていると周囲の人も同じように愛情を持てるようになる。自分の気持ちをうまく発信しながらことを進めよう。相手が必ずいつかその気持ちを理解してくれるはずである。

自分の顔は自分よりも周りの人が見る時間の方が長い。自分がどのような行動をしているか客観的に見ることはあまりないかもしれない。コミュニケーションは相手が理解出来て、初めて成り立つもので、相手がどのように理解したか、確認しながら事を進めることが重要である。意外と相手の立場になって考えてみると、自分の価値判断だけを押しつけ強引に進めていたのではないかと反省することが多い。

事業にしても技術にしても、管理職の中には、我田引水で自分が成功に結びつけたと誇る人が見受けられる。職人のように一人の技量による場合は別として、その仕事の実際の推進者や協力者に感謝の気持ちを持っていないと、理解も信頼も得られなくなってしまう。目先の功績や利益追求だけに固執せず、長期的視野に立って強い信頼関係が生まれるように心掛けねばならない。

そんな戯言をと言われるかもしれないが、大震災、その後の原発事故、すでに半年経過しているがまだまだ明日が見えてこない中で、被害に遭われた方々の忍耐強さ、絆に基づく希望、あきらめ、深い喪失感、悲しみ、憤怒等、これこそ自分がその立場になって考えてみると、国の対応の遅さにはイライラするし、個人として関われることの限界と虚しさを感じる。

被災地向けに寄付した人は多いと思うが、それがまだ有効に使われていないようである。国の為政者は強いリーダーシップのもと、復興税やその他、サポート体制が急がれる。日本は地震大国であり、将来に向けて、地震対策、津波対策、原発の対応、エネルギー資源の確保等が最重要課題である。それと並行して産業活性化、自由貿易、行政改革など迅速な対応をせねばならない。

震災から半年を経過してやっと政治家の間で協調体制が整ってきたようだ。日本人は忍耐強く、冷静で、協調性があり、日本人が忘れかけていた豊かな心が復活してきたとか、価値観が震災を契機に変わってきたとコメントされているが、被災地の人は他人事のようなコメントに対してどのように思うだろうか。そんなことより挙国一致で迅速に希望が持て安心できるような環境を整えねばならない。

続く就職難、超氷河期

多くの学生は、9月下旬になっても、未だに就職活動が続いている。20年くらい前までは、ほとんどの学生は希望する企業に難なく入れた。また、安定した給料と福利厚生を得るにはと、大企業に就職が偏りがちであった。しかし、この20年で大きくその傾向が崩れてきた。

企業の規模にかかわらず、その企業から期待されて入社し、自分自身でその会社を発展させる気概を持って働くという生き方は充実感がある。経営者と従業員が一体となり、充実感の持てる仕事が出来れば、それが社会の貢献にも繋がっていく。そんな醍醐味を持った生き方を出来る人間が今必要とされている。国内の製造業が衰退する中で、国内平均で約7割が従業員数300人以下の中小企業で、日本の産業を支えている。問題がある時こそ、渦中に立ち向かい、解決する力をつけて実践力のある人材になるように心掛けよう。

これまで下請け型産業から提案型産業への転換とアピールしてきたが最近では大手の企業よりも中小で技術力のある企業が大きく伸びてきている。

日本が輸出立国である以上海外の動きや、海外での生活も視野に入れる必要がある

世界の経済の様子が大きく変化してきている。GDPのランクは、ここ30年以上一位アメリカ、二位日本、三位ドイツとなっていたが昨年二位の座を中国に明け渡した。中国の経済成長は見ての通りだが、この成長は中国国内での活動だけではない。アメリカ本土でも中国人の活躍は目覚ましいものがある。シリコンバレーの三割が中国系であることや、ODAが支援するアフリカの街に次々とチャイナタウンが出来ている。これは中国人が自分たちの世界を広げようと努力しているからだ。また、中国だけでなく、東南アジアや中東諸国などの経済成長の伸び率が上がっている。円高が続き、日本の中小の製造業も海外へ進出せざるを得ない状況がある。バイタリティーがある国が成長していくことは明らかであり、今後の日本の発展には、若い人が海外での生活も視野に入れ、自分の生活設計が立てられるよう準備が必要である。伸びた国は繁栄し、下降していく国は衰退してしまう。

現在の日本は借金漬けで負債総額は1000兆円にもなろうとしており、国民一人当たりにすると、1千700万円以上になる。成長路線をとらないで負債を削減することは困難であり、島国日本がさらに成長するには、物質収支から考えて、技術を中心とした輸出の拡大しかない。それには一面的な捉え方であるかもしれないが、技術に対する評価を再考せねばならない。現状は先ずはコストありきで、コスト意識が高すぎて優秀な技術者はやる気をなくしている。日本の技術力の強さを経営者は認識し、海外に技術移転せざるを得ない場合にも、知財が有効に機能する体制を構築せねばならない。あまり言いたくないが20年くらい前まで学会や研究会で共にしていた技術者の多くが、個人資格で海外に出稼ぎに出ている現状を知るにつけ、誰もが家族と別れて単身で稼ごうと思っている訳ではないはずだ。国内でシニアが活躍出来る環境を考えてもらいたいものである。

プロフェショナルの仕事

プロとはある分野において、社内はもちろん、広く社外でも第一線で通用する専門知識、実務能力を持ち、自らその分野で価値を生み出すための戦略や方策を立案し、実践できる人材を指す。プロフェッショナルというのはどのようなことが自分の身の回りに起きても、ブレのない仕事が出来る人のことであろう。

経営者や管理者になったとしても、現場が判る人間になれるよう心掛ける必要がある。現場主義に徹すれば、経営者や管理者となった時に内容を大局的に判断する力が発揮される。

若い人達がこれからいろいろな試練に突き当たり、その問題を解決して行くことになると思う。 充実感を持ってわくわく楽しく、また廻りの人間も幸せに出来るようなプロフェショナルな仕事が出来るよう努力してもらいたい。

半世紀近くハイテクノの講座が続けられてきたが、これからも表面処理全般の厚い講師陣と共に技術を伝承し、若者に新しい時代に向かっての示唆を与えていけるよう努力する。