日本製の家電製品の衰退

関東学院大学材料・表面工学研究所
本間英夫

国際的な金融危機、政治の混迷のさなか、日本における電子材料を中心に工業生産が音を立てるように崩れていると感じていたが今回この件に関し、我々の研究所で論議してもらった。スタッフは、それぞれ30年以上の技術経験があり、お互い忌憚のない意見を述べてもらい、その中でこれは記録に残そうと思った内容をまとめてみた。

日本製の家電製品の衰退

テレビを例に挙げれば一時期は海外のホテルに行けば多くは日本製であった。しかし現在は殆どのメーカーが赤字に転落し、直接の生産から撤退と言う記事紙面を騒がせている。中国、韓国、台湾などの方々と話す機会が多いが、日本の技術は非常に高いがマーケティングの点で詰めが甘いのではないかと指摘される。日本の商品開発は技術内容ばかりを見ていて、海外の現地人が求めているものを良く理解できていないのではないかと。
価格が安ければ多少ライフが短くても納得できる。技術水準が高く、価格帯も安いと言う事であれば良いのだが、過剰な品質で値段が高いのでは必然的にマーケットは減ってしまうと言う。確かに品質が良いことは消費者にとってありがたいことだが、過剰品質であれば競争力を失ってしまう。現地の要望がうまくモノづくりの現場に伝わっていない。また、開発に至っては業績が芳しくないため、大幅な改善が出来なくなっている。
思い切った改善をして失敗をしたら、職場を追われることを気にするあまり、実績のあるもの以外に手を出せなくなっているのだ。
この様に、日本の開発担当者の多くはチャレンジ精神を失い、新しい提案に対し、それは実績があるのかと尋ねる始末である。

半導体産業の衰退 ファブレス化の是非

半導体に関しても、新しい開発に対し成功しなかった場合の責任を逃れるために、台湾の外注メーカーに初めのテスト生産を頼み、うまく行ったら国内で生産するつもりが、初期10枚のウエハ加工では装置にムダ金を出せないので外注し、100枚、1,000枚でも装置に手が出せず、10,000枚のオーダーが出た際に、そろそろはじめようかと思ったら製造技術が手元に何もなく、結局は量産も外注に出すことになってしまったのが現在の半導体事業の状況ではないだろうか。

恐怖を乗り越え、額に汗せずに製造をすることなどありえないのだと我々は考えている。

このような日本の開発に対しての消極的な態度は、殆どの方が知っているはずなのに業界で大きく警鐘を鳴らす人がいない。

ファブレスが先進国の王道であると考え、そのようなことを言ってはいけないと言うことなのだろうか。

教育面ではゆとり教育や横並び教育により、特色ある人間が出てこないようにしてしまっている。 このような教育体系ではファブレスで外注し、且つ自国で利益が上げられるようなアイデアを持つ人間はなかなか生まれてこない。

日本流の職場環境

アメリカはファブレスで大きな利益を上げている人も多いが、不景気の際に職場を追われ不安な生活を追っている人も多い。日本人は今迄の終身雇用の習慣から会社業績の変化で解雇されることに慣れていない。人を思いやる気持ちが強く、職場で困っている人がいれば自分の技術を伝授する習慣があり品質向上への意欲は他国よりも優れていると感じているが、このままの社会環境が続けば昭和初期の労働者の意見無視の経営スタイルに戻り、多くの社員の良い意見が得られないのではないだろうか。

スタッフの一人である梅田君は、アメリカの半導体製造装置メーカーに5年間在籍した経験から、日本の会社との違いを衝撃的に感じたと言う。すなわち、日本には仕事の中での上下関係が強い。例えば何々君これはどうなっているのかねと言う仕事。本人はアイデアを持たず部下に内容を聞くだけの仕事を持つ。多くの海外のメーカーでは男女の区別が無く、平社員が社長を呼ぶ時も名前で呼び合う。

日本ではかなり小さい単位の会社でなければ、そのようなコミニュケーションは取れないだろう。スピィディーに現場の必要な改善を指示できるようにするには、普段からの職場を読み取る技術を養っていなければならないはずである。 それが出来ている会社は現状でも伸びているような気がしている。

日本の製造業の再構築

今後の日本はとにかく製造技術を再度構築し、ファブレスを推進するのか、製造業を残すのか政府も巻き込んで教育も含めて取り組む必要があると思っている。 色々問題を持っているとは聞くがシャープのパートナーとなった台湾の鴻海精密工業は世界のパソコンのほとんどを請け負う。低賃金であることから中国に工場群を増やし、その代表格であるは深センに四十万人従業員を抱える工場を筆頭に、中国の三十三の都市に合計約百万人の従業員を抱えている。

さらに、ソニーなどから欧州、メキシコなどの工場を買収し、世界中で展開するマンモス企業に成長した。鴻海精密工業はもともと、コネクタの製造がメインの工場で、2000年には五千億円ほどだった売上高が今や九兆円を超え、日本のどの家電メーカーよりも巨大な存在になった。台湾と中国は同じ民族であることもあるが、相手方を理解できるから現地で事業を伸ばすことが出来たのだろう。

鴻海精密の社長がアメリカのDell社の仕事を取るようになったのも、若干30歳であった当時のDellオーナーを台湾のEMSを案内する機会を得て、自ら案内役を買って出て自分の工場も案内する機会を得た。そのことが、現在の大きな発展の契機になり、且つDellの発展にも寄与したと言う話である。

現在の九兆円の売り上げは自前の力だけでなく買収を繰り返し大きくなったものであるが、まず自分の利益を考えるのではなく、相手の利益を考える中で自分の発展を探る度量が日本企業には求められているのではないだろうか。

先ずはコストありきからの脱却

海外の競争相手は直向きに製造業と向き合っている。額に汗することなくことを進めようとすれば、この先も我々は良い結果を得ることはできないと思う。

ファブレスに丸投げで、見積りどおりの製品を作ってもらうだけでは発展性が無い。

基礎技術、設計、品質技術、製造技術、材料管理、人事管理、品質管理、全て管理出来る体制を加工先に指示出来ところまで完成させていかいけない。
また、行きつくところその仕事に愛情が無ければだめなのだと思う。

コスト、コストでしのぎを削っていると、仕事に対する充実感や情熱が失せてしまう。それを続けてきた結果が今の日本の製造業の現状を作り出しているのではないだろうか。