安倍政権で日本は再生するか

関東学院大学
本間英夫

昨年末、政党が乱立し衆議院選挙の結果3年間の民主党政権から自民党政権に代わった。政権交代によりアベノミクスと称する経済対策が打ち出されてから円安が進み、景気の先行指標としての株価が大きく回復し1月初めには震災前の株価になった。政府が1月11日に緊急経済対策の全容を発表し経済対策の全貌が明らかになってきたが、それによると成長による富の創出など、重点3分野が設定されると同時に富裕層からの課税拡大など、アベノミクス税制も明らかになってきた。
安倍首相は「政府・与党一体となって、長引くデフレ・円高から脱却し、雇用を拡大し、国民の所得の拡大をしていきたい」と述べた。
政府が1月中旬に閣議決定した緊急経済対策の中身は復興・防災対策、成長による富の創出、暮らしの安心・地域活性化の3つを重点分野である。
財源には、建設国債をおよそ5兆円発行するなどして充て、事業規模で20兆円を超える大型補正予算を編成するとしている。
甘利経済再生相によれば、従来型とは視点を変えた新しい切り口で、全て見直すとしており デフレ脱却へ向けてアクションがとられる。
また、自民党の自動車議連は、2014年4月に予定されている消費税率の引き上げまでに、自動車取得税と自動車重量税を撤廃するよう政府に求めている。
自動車取得税は、新車購入時だけでなく、中古車を購入する時や車検のたびに車両の重量に応じてかかる自動車重量税である。実際、この取得税が撤廃された場合、車がどれくらい安く購入できるのか、インターネットに紹介されていたが ある標準的な乗用車の車体本体と消費税や諸費用あわせて、253万7,855円のかかったものが、これらの税金が撤廃されると6万3,900円負担が安く車が買いやすくなる。
一方、消費税率が引き上げられた場合、低・中所得者に配慮しながら、政府は、所得税と相続税で、富裕層への課税を拡大する方向である。
所得税については、最高税率を現在の40%から45%に引き上げ、相続税については、基礎控除を減らして、納税する人とその額を増やす方向で進んでいる。
しかし、政府内で富裕層から税金をもっととればいいとする意見と、取りすぎると消費意欲が減退するのではないかと意見が相半ばしている。
また、政権党である自民党内にも、所得税など富裕層への課税強化は富裕層の消費を抑えることになり景気への悪影響が出ることに危惧し慎重論が根強いようだ。
エコノミストによると税制強化により高額消費について、影響は大きいと。特に富裕層は、高額な買い物をする場合が多いが、マイナスが大きくなる可能性がある。
景気への影響を抑えるために、アベノミクスが一定の成果を上げるであろうが、景気が良くなれば、その後、税率が上がった負担増分と、景気が良くなって所得が上がったという面が相殺されるし、また所得が上がったと実感するまでには2,3年はかかるので 安倍首相が最優先課題に掲げる経済の再生は功をするか。
個人金融資産の有効活用は
不況から脱却し、自律的に経済復興するには、輸出産業の復興に加えて如何に内需拡大をするかが最も重要な課題である。個人金融資産1500兆円は、まさに日本の「内需拡大」の鍵となる。1500兆円の金融資産に対して、その利子1%分でも15兆円。これは一年間の個人消費総額の5%にあたる。つまり、資産をもつ人が、元本は全く使わず利子分だけ使ってくれて、日本の個人消費は5%増える勘定になる。また、貯蓄の元本は全く減らすことなく、この利子だけによる個人消費額でGDPを2%以上押し上げることになる。老後は貯金を取り崩し元本が減ってくれば不安なので貯蓄したままということになるが、そのムードを大きく変える必要がある。私の記憶では40年くらい前、これまでの最高利子は8.894%であった。少し余裕のある家庭では利子だけで生活が出来たものである。
現在は利子が大幅に低下し、1%の利子もついてないが、個人貯蓄の中には保険や年金商品など超長期の商品の割合が高く、それらの中には2%から5%もの予定利率の商品も含まれており、これらは長期国債で運用されて1%で10年くらいまわっている。また、投資信託や株に以前から投資している人は、この20年間の経済低成長時代、さらにはリーマンショックにより資産を大幅に減らしており、なかなかお金を持っている高齢者層の消費は上向かない。しかも多くの保険は分配型ではないので、それがいくらで回っているのか、わかるのは本人が死亡した時で、その財産は息子に相続され、息子がまた老後のためにと貯金する。従って、この1500兆円の大半は塩漬けにされ、経済に全く貢献しないことになり、政府はおカネを吐き出させる方法として相続に関する基礎控除額を下げ、相続税率もあげて対応しようとしているようだが、これら高齢者の子供たちは、すでに30代から40代で一番お金のかかる年代であり、思い切って子供たちや孫に相続税をゼロにすれば、いろんなところに消費が回るのではないだろうか。また、急激に高齢者が増えてきているので、一定の資産のある金持ち高齢者向けのビジネスは、大きな可能性がありそこにターゲットを絞ったビジネスが最近出てきている。政府は、2000年代前半には「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げていたが、リーマンショックを過ぎたあたりからはほとんど聞かれなくなった。
「貯蓄から投資へ」は、より多くの資金を投資へ向かわせることにより経済を活性化させ、新しい産業や企業を資金調達面で支援することにも繋がる。
一方で、日本の財政は1000兆円もの国及び地方の長期債務残高(国債等)を国内の資金で調達することにより賄っている。すなわち、日本の財政は、個人の財産の多くが預貯金として、ゆうちょや銀行に入っており、ゆうちょや銀行が多額の国債を引き受けていることにより、国債金利は10年国債で1%を切る水準となってきている。日本国債のリスク・リターンを冷静に考えると日本国債をたくさん持つことは合理的かどうか疑問だが、銀行にとっては、自己資本比率規制から国債を購入しておけばリスクがないことになる。
バブル崩壊から再生へ
安倍内閣は「経済再生」「復興」「危機管理」に全力で取り組むとし、国民一丸となって強い日本を取り戻していこうと呼びかけている。直近の課題としては、「デフレと円高からの脱却による経済の再生」を強調し、これが大きく前述のように円安、株価の上昇につながった。 日本経済の低迷が始まったのはバブル崩壊の1989年で、すでに23年が経過している。
この23年間の低迷期間の90%は自民党が政権を担ってきているので、強い日本を取り戻そうとのアピールには懐疑的にみている評論家が多い。一つの顕著な例だが、私自身もこの間の大店舗法が施行されてから、自分の故郷に帰るたびに、寂れ活気を失った駅前通りや学生時代の混雑していたアーケード街が閑散としている現状を見るたびに、また地方都市に講演で出かけた際、ほとんどの駅前が昔のような活気がない現状を垣間見ると、寂しくなってくる。また、100円ショップ、牛丼戦争、ハンバーグ戦争、衣料品店の価格戦争など、商品の価格がどんどん低下してきた現状を見るにつけ、競争型の資本主義でいいのか疑問になってくる。アメリカ型の手法だけに頼るのではなく日本の良さを維持した、町づくり、都市づくりなど経済の発展手法を強いリーダシップのもとに改革してもらいたいと願っている。今回の安倍政権下での経済再生プランが報道されてから、これまで経済再生で日本の経済学者の言う通りにしていても上手くいかないと、冷ややかに批評しているコメンテータもいる。冷静に将来を展望しながら、暮らしをよく観察し、どのようにお金が廻って行くかを考える出発点から経済政策を考えるべきで、従来型の公共事業をやれば良いというわけではない。
また昨年、2012年はパナソニック、シャープ、ソニーといった日本を代表する電機メーカーが苦境に立たされた1年だった。中でも韓国・中国勢の台頭するテレビ事業での不振が目立ち、再建策が大きな課題となっている。特に中国では尖閣諸島問題も加わり、日系メーカーの競争力低下が著しい。中国のインターネット消費調査研究センターが発表した2012年の液晶テレビ注目度ランキングでは、韓国のサムスン電子が18.4%の注目度を獲得し、首位に浮上。中国の海信(ハイセンス)が2位となった。一方、一昨年トップだったソニーとシャープは3位、4位に転落。注目度はそれぞれ12.6%、11.9%となった。
今年の中国の液晶テレビ市場について、3Dテレビやスマートテレビなど高付加価値製品への注目度が高まっていくと予測している。この流れで言えば、「4K」など高画質商品に注力する日系メーカーの戦略は市場動向に沿ったものになるだろうと予測されている。ただし、中国はこれまでの価格競争力だけでなく技術力もついてきており、成長力は大きな脅威となってきている。
工業製品の競争力は常に切磋琢磨され、新興国が日本に代わって活躍することは否めない。そこで日本が再び技術立国、ものづくり大国になるには何度も同じことを言うようだが我々の表面処理の業界も下請け型から提案型に転換していかねばならない。
明治時代に日本の生糸の生産で、安い中国産に押され産業がダメージを受けそうになったが、自動化によりその難を逃れたこともあったが最終的にはほとんどが中国製になってしまっている。しかし化学繊維でそれ以上に良いものが出来次の世代の産業となり、その産業も衰退し、その技術を使ったカーボン繊維の技術が高強度シャフトや自動車、航空機の ボディーとして使われるようになっている。
大きな視点で考えれば既存製品で他国の台頭により、国内産業の競争力がなくなってきた場合は、今迄の技術を使い新しい製品をひねり出す以外にその産業を変革しながらでも残す方法はないのであろう。
そのためにも携わるエンジニアは自分たちの製造している工程の強みを熟知し、常にその技術の応用を編み出すことに注力していかなければならない。
職場は常に風通しを良くし、生産の中で出てくるアイデアを漏らすことなく活用できるよう担当者、管理者、経営者の区別なく良いアイデアを出した際の評価を出来なければいけないのだ。
関東学院のめっき技術は成功の歴史だけではなく多くの失敗も経験したがその都度解決を諦めず続けることができた。
これからもこの歴史が脈々と続くようにしたいと思っているが、他国との関係に右往左往することなく、常に新しい時代に向けて進んで行く努力を続けて行きたい。
今年は高速伝送回路向け実装技術確立元年とした。
今迄築いてきたプラスチック上のめっき技術を進化させ、ガラス基板、セラミックの上にも表面を大きく粗化することなく微細であり、かつ密着性のある回路が形成できるようになってきている。この技術を世界に先駆けて開発したが実用化に向けて弾みをつけ、日本の産業の礎になって行きたい。