電力事情

関東学院大学材料・表面工学研究所
所長 本間 英夫

  今年は節水のキャンペーンは聞かれたが、この夏は「節電」という言葉を耳にする機会が少なかった。例年のことだが政府や、電力会社から7月1日から9月末の3か月間、家庭や企業に節電を求められていた。しかしながら、原発停止から昨年までの電力不足を煽りたてていた節電キャンペーンは一体どこに。昨年は、特に大飯原発3,4号機(福井)の再稼働を巡って激しい論争。
 昨年テレビで頻繁に報道されていたが、大阪府合同庁舎の壁には「この夏、節電待ったなし!」の垂れ幕がかかり、関電社員や大阪府職員が街頭に立って「節電」PRに躍起だった。関電は関西広域連合と連携し、電気使用量を前年夏から15%削減を達成した世帯を対象に節電イベントとして景品を出すなど、あの手この手で節電を訴えていた。しかしながら、そのキャンペーンは完全に姿を消した。同社は、今年は節電イベントも一切行なわないという。理由としては、昨夏とは異なり、大飯原発も再稼働しており、電力需給の見通しも立っているというものである
政府が求める節電も無理のない範囲でとトーンダウンしており、昨年までの数値目標はない。昨年の大騒ぎは一体何だったのか。昨年9月、大飯原発の再稼働がなくても、火力発電所を動かせば、電力には余裕があったのだという。今年の政府の検討会合でも、節電の数値目標を設定しなくても、今夏の電力は需要が供給を上回るとしている。 このように、大飯原発は再稼働されたが、節電の根拠となった需給予測そのものがオーバーに見積もられていたのであろう。本年は観測史上最高温度を記録し、猛暑が続いたが、今年の夏も節電に取り組む家庭は多かったのではないだろうか。熱中症で亡くなった方も多い。
原発再稼働問題、現時点で大飯原発3,4号機が昨年夏から稼働しているだけで、後の48基は定期点検中止中である。
 自民党資源エネルギー戦略調査会が8月中旬使用済み核燃料の最終処分法が確立されるまでは原発の新規建設を見送るべきと提言しているし、さらに自民新議員は、核燃料サイクルは破たんしているとして、50年ころには原子炉をすべて廃炉にすべきとの提案をしている。原発は火力や水力などのこれまでの発電と比較するとエネルギー効率は著しく高いが、一度事故が起こると取り返しがつかない。
3次元プリンター
パソコンからプリンタに印刷したら、立体物が出来てしまうという「3Dプリンタ」がにわかに注目を集めている。もともと自動車部品の試作品や医療を目的とした人体の模型の作成などに使われていたが、低価格化が進んでおり、手軽に手が出せるようになってきた。私自身は20年以上前になるが、紫外線硬化樹脂を用いて人体を立体的に造形している筑波の研究所見学させていただいている。
3Dプリンタとは、通常の紙に平面的に印刷するプリンタと異なり、三次元CADのデータを元に立体物を造形する。3次元造形もツールは小型化、低価格が進んでおり、コンピュータ上で作った3Dデータを設計図として、断面形状を積層していくことで立体物を作成する。液状の樹脂に紫外線などを照射し少しずつ硬化させ、熱で融解した樹脂を積み重ねていく方法、粉末のセラミックスや樹脂に接着剤を吹きつけていく方法がある。
現在、製造業を中心に建築・医療・教育・先端研究など、幅広い分野で普及している。用途は業界によって様々であるが、製造分野では製品や部品などのデザインや機能の検討などの試作やモックアップ、建築分野ではプレゼン用の建築模型の作成に利用されている。特にこれから注目される領域は、医療分野で特にコンピュータ断層撮影や核磁気共鳴画像法などのデータを元にした手術前の検討用モデルとして利用されている。また、教育分野ではモノづくり教育のツールとして、先端研究分野ではそれぞれの研究用途に合わせたテストパーツなどの作成用途で使用されている。
3Dプリンタを用いて、製品を作る前にそれぞれの部品を3Dプリンタで出力できるサイズに縮小して、デザインや試作品として使われている。また、最近では、大手建設会社では建物模型を3Dプリンタで出力し、顧客の説明用に使われている。これまでは安くても数百万円するため、ビジネス用途に限られていたが、上述のように数万円~数十万円のものが発売され始め、個人や家庭でも導入されつつある。今までパソコンの画面上バーチャルでしかイメージできなかったものが、模型として実際に手に取ることができるため、完成したときイメージしやすくなり、作業効率の向上にも繋がる。最近大手企業の販売促進やイベント用のキャラクター制作などに使っている3Dプリンタは、石膏を、フルカラーで出力できるという特徴を持っている。
パソコンから写真を印刷するにはプリンタのほかに、デジタルカメラで撮った写真のデータが必要であるのと同様、3Dプリンタもある形を“印刷”するには、その形体のデータが必要で、歯医者でX線をスキャンして立体像を撮るのと同じように、構造物を360度から撮影して、そのデータをパソコンで処理し、プリンタに出力する。出力が始まると同時にプリンタから突出する石膏や樹脂を0,1ミリ程度の厚さに薄く広げ、この上に接着剤入りのインクで普通のインクジェットプリンタと同じ要領で輪切りデータを印刷する。
これを1時間に2から3センチというスピードで繰り返し積み重ねていく。印刷したところ以外は固まっていないので、それを除去すれば、接着剤で固くなった箇所だけが浮かび上がるという仕組みで、さらに硬化剤を染み込ませて乾燥させると望む形を作成できる。3Dのデータを作るには専用のスキャナーや熟練の技術が必要でありまだまだ専門的な熟練度が必要である。
したがって、3Dプリンタが普及するにはプリンタの低価格化だけでなく、如何に3Dをデータ化するかが重要である。アメリカですでにデーターが公開されているようだがさらにネットで共有される様になれば、それを組み合わせて普及が進むであろう。