VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン

関東学院大学 材料・表面工学研究所
堀内 義夫

 新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で、会社からテレワークを命じられる方が増えています。自宅での作業スペースの確保に存外苦労されているという話も友人から聞きました。しかし、自宅で自由に作業環境を構築できる絶好の機会と考えていただき、できる限り快適に過ごしていただきたいと思います。自宅で作業する際に構築するPC環境について、厚生労働省が示している「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を基にご紹介させていただきます。

 VDT(Visual Display Terminal)作業とは、コンピュータディスプレイを使った作業の総称です。長時間のVDT作業は首や肩の凝り、眼精疲労やドライアイなどの身体的負担を増加させるため、労働衛生上の問題になっています。このガイドラインは、なるべく作業者の負担とならない作業環境を構築し、作業時間や休憩などの作業管理を適切にすることで、健康に対する負荷を少なくする手法について述べています。本稿では自宅でノートPCを使った作業を主体として扱っていますので、特にMicrosoft Officeを使った業務などの一般的なPC作業を想定しています。

作業環境管理
(1)照明及び採光
 室内はまぶしくない程度に明るく、ディスプレイに対して十分に光が入射している必要があります。また、周辺のキーボードや紙の資料なども同程度明るくすることで、明暗の差から生じる眼の負担を抑えられます。そのため、卓上ライトなどを使用すると良いでしょう。

(2)グレアの防止
 VDT作業におけるグレアとは、視界内に明るすぎる照明や点滅する光源などがあることで視認性が低下することを指します。光源の位置だけではなく、ディスプレイに反射して映り込む場合にも視認性を損なうので注意が必要となります。
 市販のディスプレイにはグレア(反射)型とノングレア(反射防止)型があります。グレア型は黒色が引き立ち、画面が鮮やかになるため動画鑑賞用途などに人気がありますが、PC作業には映り込みの少なさからノングレア型がお勧めです。現在使用しているのディスプレイがグレア型である場合、反射防止フィルムなどを張ることでノングレア化も可能ですが、性能によっては表示文字の鮮明度が低下することもあるとのことです。製品を検索する際は「ノングレア」や「アンチグレア」などをキーワードにすると良いと思います。
 ガイドラインに記載はありませんが、所謂「ブルーライト」は、アメリカ眼科学会のコメントに従いカットすることをお勧めしています。Windows10の場合、スタートメニュー>設定>システム>ディスプレイ>夜間モードの設定 により調整可能です。もちろん、動画や写真などを鑑賞する場合は設定を戻していただいても結構です。また、最近の液晶ディスプレイにはブルーライトカット機能がついているもが多くあります。

(3)騒音の低減
 自宅でのテレワークではあまり気にする必要がないかもしれません。カーペットを引く、音源を遠ざけるなど、必要に応じて消音をしてください。最近は、ノイズキャンセリング機能の付いたヘッドホンを使用することで、作業に集中できる環境にされる方もいます。

(4)その他
 換気、温度および湿度の調整をし、なるべく快適な環境を用意してください。特に二酸化炭素濃度が高くなるといつの間にか頭がぼーっとしてきますので、定期的な換気を心がけてください。

作業管理
(1)作業時間等
 ガイドラインでは作業内容の負担の度合いによって区分を定義していますが、一連続作業時間が長くならないように定期的に数分の小休止やストレッチ運動、眼の休憩などをしましょうという趣旨です。PC作業を1時間したら、ディスプレイを見ない時間を数分つくるなどするようにしましょう。また、ご自身の一日あたりの平均PC作業時間を把握することも大切です。

(2)VDT機器等
 デスクトップPCとノートPCはそれぞれ一長一短あり、モバイル性が必要な場合にはノートPCを選ばれるのが当然です。しかし、ノートPCを使用する時は姿勢が悪くなりがちであるため長時間の作業に向いてなく、出来る限りの改善をお勧めします。
 殆どの方はデスクに置いたノートPCをそのまま、あるいはマウスのみを接続して利用されているのではないでしょうか。ディスプレイとキーボードの距離は詰まっており、目線はかなり下に向けるため頸椎にも負荷がかかります。姿勢を整えるにはいくつかの改善方法がありますが、特に有効なのはディスプレイとキーボードの分離です。ノートPCはキーボードとディスプレイが一体化しているため、どうしても姿勢が崩れがちになります。キーボードを外付けしてノートPCのディスプレイを手元よりやや離した位置に設置することで、作業環境の改善はできます。その場合はマウスも接続する必要があります。
 外部ディスプレイを用意することでも、作業姿勢は改善できます。目に優しいVDT作業モードを搭載したノングレア型のディスプレイを顔から40cm以上離したところに、水平視線よりやや下に画面が来るようセットしてください。その際はノートPCをディスプレイは手元に置いて補助的な用途に使用しましょう。複数のディスプレイを用いることで作業効率の向上だけでなく、頭頚部が動くことで静的筋肉負担を低減できることも報告されています。また、椅子やデスクも身体にあわせて調整できるものが良いでしょう。
 最もお勧めしたいのは、外部ディスプレイ、キーボード、マウスを全て接続してデスクトップPCのように扱うことです。キーボードやマウスは、必要としている機能、個人の手の大きさや利き手によっても使いやすさが左右されます。より自身の身体に負担が少ないものを採用しましょう。お勧めのデバイスを紹介しようとしたら紙面を埋め尽くしてしまいましたので、今執筆しているのに使用しているマウスとキーボードをご紹介させていただきます。
・Microsoft Classic IntelliMouse(マウス/勤務中)
・Microsoft Natural Ergonomic Keyboard 4000(キーボード/勤務中)
・Microsoft Pro IntelliMouse(マウス/自宅)
・東プレ REALFORCE 106S/廃盤(キーボード/自宅)

 以上、「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を基に、主にノートPCを使って作業されている方に負担の少なくなる作業環境・管理について簡単ながら述べさせていただきました。一連続作業中に適度な休止(休息)時間を設ける事と姿勢改善をすることで、眼精疲労や腰痛などといった心身の負担を軽減することができます。社用PCへのUSBを経由した接続が制限されている場合でも、外部ディスプレイへの接続は許されていると思います。身体に合った椅子やデスクを用意することも非常に重要です。出来る範囲での改善を心がけましょう。
 また、PC購入時に付属していたキーボードやノートパソコンで打ち込みされている人は、東プレのキーボードであるREALFORCEシリーズを特にお勧めします。どれだけ素晴らしいキーボードか是非ご使用して感じてください。一番安いものでも1万7千円台からと高価に感じるかもしれませんが、10年は使えると考えれば1年あたり2000円以下とむしろ安価です。1,2年で壊れるキーボードを購入するぐらいならREALFORCEを触ってみましょう。